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才能あっての仕事

 俺の塾は開業計画段階から対象を明確にしていた。

「中学受験をしない公立小学校の生徒」

「市内の公立中学に通う中学生」

以上だ。

これに少し補足するとすれば、小学生は高学年(5年生以上)、中学生は学区トップ校に合格するレベルの指導をして行くということぐらいだ。

国私立の中学受験をめざす小学生や、そこに通う中学生、また、公立中学生であっても教科書が異なる学区外の中学生はその対象から外していた。全国に数え切れないほどの塾がある中で、このタイプは最も一般的で多いのではないかと思う。良く言えば「もっとも参入しやすい」、悪く言えば「競争率が高い」ということになる。

地域の塾では、ここ数年対象学年をかなり広げている。元々は俺の塾と同じような対象だったはずなのに、下は小学1年生からなんて当たり前で、就学前の子どものクラスまで設定している塾。上は高校部、大学受験、社会人の資格取得試験のサポートまでするところもある。

そんな時代だが、俺は対象学年やターゲットを広げることをまったく考えていない。むしろ、開校当初は小4からの募集だったのを、数年前から小5からとし、対象を狭めているほどで、今後はさらに対象学年を絞ることも考えている。

なぜ、俺は競争率が高くなる対象学年の塾にしたのか。理由は単純だ。「負けない戦い」をするためである。競争率は高くても、公立高校入試指導であれば、たとえ相手が老舗の敏腕塾長だろうが大手のエース講師であろうが、俺が完敗を食らう確率は極めて低いと思ったからである。普段からブログでの俺の物言いを、上から目線だと感じておられる読者の方がいるとすれば、それは・・・その通り(笑)。しかし、信じてもらえないかもしれないが、俺は自分の力量、他者の力量を極めて客観的に、しかも謙虚に分析して測ることができる人間だと思っている。何より、自分がやることで人に迷惑をかけたくないという気持ちが強い。その上で、公立高校受験塾であれば、たとえそれがトップ校をめざす塾と謳ったとしても「負けない戦い」ができると思ったのだ。

授業料の単価を考えれば、中学受験指導や高校生の指導、大学受験指導は高く設定できるので「おいしい」と言える。実は、俺も中学受験の小学生指導や、高校生の指導、大学受験指導と、これまで一通り経験してきている。最近はないが、開校当初は中学受験指導について問い合わせもあった。高校生の指導や大学受験指導については卒塾生やその保護者からの要望も少なくなかった。

まず、中学受験指導については、経験はあるものの俺自身がノウハウを身につける前にそのセクションから離れてしまったために「技術がない」「戦略がない」ことが、やらない大きな理由だ。あとは、中学受験の小学生指導は、生徒の精神年齢と必要知識の関係、生徒と親との関係も重要でどうしてもやりにくい。

高校生指導に関しては、卒塾生や保護者から直接要望を受けることもあるが、俺はだいたいこう言って逃げている。「1人でやっているものですからとても高校生までは」と。これでだいたい納得してもらっている。本音は、「大学受験指導の才能がない」ことが最大の理由だ。そう、俺には大学受験指導の才能がないのである。ここまで言い切れるのは、俺がかつて3年ほど塾の高校部責任者として指導にあたった経験があるからだ。この経験についての詳細はまたいつかあらためて書くことにするが(以前にも書いた記憶がある)、俺はこの時、粉骨砕身で挑んで「完璧に負けた」経験をした。その経験があるので、現在中学生までを教えている塾の経営者が、もしも卒塾生や保護者の要望があって高校部をやりたいという相談を俺にしてきたら「簡単に手を出さない方がいい」と即答する。

あまりネガティブなことばかり並べるのは不本意なので、自分の名誉のために書いておくと、俺は今でも高校英文法や高2までの学校レベルのことなら生徒が十分に満足するぐらい教えられるだろうし、大学受験英語も少し知識と感覚を取り戻す時間や、傾向分析・研究の時間があればやれる自信はある。しかし、俺ができるのはせいぜいそこまでで、それが限度だ。つまり「英語講師」はどうにか務まったとしても、大学受験生を預かる指導者として大切なことの1つである、合格へ導くための「総合指揮(プロデュース)能力」がないのだ。この能力欠如は致命的である。それに、「英語講師」が務まると言っても、その場合、小学生や中学生のクラスを全部やめて、塾を「高校英語専門塾」にしなければ不可能だろう。これも昔の経験から悟ったことである。万が一、本当に万が一、大学受験指導に携われるとすれば、以前「ガチンコ」というバラエティ番組であった予備校の大和龍門の立場、つまり、自分は勉強を直接指導せずに、精神的な支えになるという位置づけしかないと思う。

こんなことを書きながら、実は、年に1人ぐらいのペースで高3の大学受験生が塾で勉強したいとやって来て、彼らを非公式で受け入れている。それはもうヤバい状況の生徒しか来ないが、彼らも弁えているので俺の仕事の邪魔をするようなことはなく、質問も遠慮してして来ない。もちろん、俺が高校生の英語以外の教科を指導できないことも知っている。しかし、受験で最も重要な教科である英語の出来が散々で、見るに見かねた時には声をかけ、勉強の仕方をアドバイスしたり、文法理解があまりにない場合は、俺が簡単な講義をしたりている。そうやって、俺は高校ですっかり怠けた卒塾生たちの背中を押すというよりは、3年ぶりにもう1度ケツを蹴飛ばす存在になっている。何度か塾に来ると、決まって彼らの保護者の方が「お金を払いたい」と仰ってくるが、それはもらえない。この行為は、金を取ってやるものではないという俺の判断だ。公立に落ちて私立に行った生徒の場合は特に。だから「君が働くようになって俺が食えなくなったら、飯ぐらい食わせてくれ」とか「大学に受かったら、一生、恩を忘れないように」とか言っている(笑)。

もう、大学受験英語からは随分遠ざかっていたが、そんな風に毎年だれか来るので、少しでも錆びた刀を研いでおこうと、最近、時間があるときに大学受験英語の問題集を解いている。それは高校部をやるためでもなく、ただ趣味として。そして、卒塾生がヤバくなって塾に駆け込んできたとき、英語ぐらいなら少しは助けてあげられるようにやっている。

問題を解いていると、まだ覚えている問題、忘れてしまった問題、知らなかった問題等いろいろあって面白く、高校生に英語を教えたい気持ちが湧いてくる。その上、猫ギター先生やkamiesu先生の高校部の話をブログで読むと、「ああ、いいなあ」と思わないはずがない。猫ギター先生の大学受験指導ブログなんて、全国の多くの塾講師にとっては、野球少年にとっての長嶋茂雄のホームラン、ロック少年にとってのビートルズのツイスト&シャウトだ。あれを読んで、自分もあんな大学受験指導をやりたいと思う講師はきっとたくさんいるだろうし、(当然、真似しようと思ってできるものではないが)それはとてもいいことだと思う。しかし・・・俺は悲しいかな、既に自身に才能がない。容量も足りないことを知っている。だから俺はこれからも、「負けない戦い」をしていきながら、せめて高校で英語がボロボロになった負傷兵の手当とカウンセリングぐらいならできる存在にはなっておきたいと思う。

ヒクソン・グレイシーという格闘家が、相手を選び、ルールに細かく注文を付けて「負けないように」戦い、400戦無敗の伝説を残したまま引退した。俺も塾に関してはそんな感じの戦い方をしているのかもしれない。

ところで、俺には「人生最後の挑戦」にしたいことがある。それは、小さな児童養護施設(親がいない、または親が分からない、事情があって親と一緒に住めない子どもたちの施設)をつくり、そこに塾の機能を備え付けて、その施設から子どもたちを当たり前に公立トップ校や大学に進学させる仕組みを作ること。まあ、今のところ、実現のあてのない夢であるし、夢のまま終わるかもしれないけれど。

これまで何度か書いてきたが、俺はそれほど子ども好きではない。教えることに関しての才能はあると思う。塾の仕事は素晴らしいと思うし、誇りもあるが、塾の仕事が好きかと言われたらそうでもない。

だから俺は、技術や知識が高く、その上で子どもが大好きで、塾の仕事が大好きで、一生の仕事だと言い切れる先生は強いと思うし、講師としての長期的な勝負になれば俺ではとても勝てない相手だと思う。

「好きだから」という思いだけで仕事をやっていいわけがない。たしかに俺は塾を好き勝手にやっているが、自分の技術や才能が担保された範囲でやっている。才能の有無は、必死で何年かやったら自分でもだいたいわかるはず。その才能もないのに、ただ好きだからという理由で無理矢理続ける仕事は、関わる人をどんどん不幸にするだけだ。
ロカビリー * 教務のブルース * 23:26 * comments(8) * -

コメント

多分ご存じでしょうが、児童擁護施設の子供たちも、国・県から補助が出て、中学生は塾通い出来るようになっています。
Comment by 名無し @ 2013/06/26 7:41 PM
児童養護施設の子らは施設が指定した塾にしか通えないというのが現状で、おまけにその塾はしっかり吟味して選ばれたのでもないというのがほとんどでしょうね。

塾に通えるというのと、よい塾で学べるというのは違いますからロカビリー先生みたいな先生にいつかそういう施設を作ってもらいたいです。
Comment by No name, no life @ 2013/06/27 10:30 PM
はじめて書き込みします。一度うちの塾に冬期講習に施設の子がきました。受験生でした。しかし日曜日に模試だとか特訓だとかいった場合も、施設側のクリスマスイベントなど行事の参加、運営の仕事が優先されて来れませんでした。出来ない子や勉強経験がない子へのサポートは施設側の協力が不可欠です。
Comment by ひで @ 2013/06/28 12:04 AM
no name,no lifeさん

どうしても、そうなりますね。やはり施設内に設置された塾をつくることができれば強いと思います。何と言っても24時間体制で勉強できますから。
Comment by ロカビリー @ 2013/06/28 4:50 PM
ひでさん

貴重なコメントありがとうございます。施設の子を実際に預かる塾の状況は聞いたことがないので。そうでしたか。
Comment by ロカビリー @ 2013/06/28 4:52 PM
はじめまして。
いつもブログを拝見しております。
整然としていながら、テキスト越しに熱が伝わってくる文章、何度も読み返しているエントリがかなりあります。
私も新卒で塾業界に入り、途中会社員になったりしながらも10年近く籍を置いてきました。
最後に働いていた塾で、児童養護施設の依頼で
生徒を受け入れて居りましたので、もしご参考になればと思い、コメントをいれました。
ただ、かなり特殊な事例ですので、私個人、生徒の特定が、人によってかなり容易かと思われるます。
メールで先生宛に送りたいと思いますがいかがでしょうか?
夏期講習後半に入ったところで、お忙しいと思います。お手が空きましたときに、ご連絡お願い申し上げます。
Comment by 3児の母 @ 2013/08/21 10:46 AM
管理者の承認待ちコメントです。
Comment by - @ 2013/08/21 11:04 AM
3児の母さん

さきほどメール受け取りました。ありがとうございます。

貴重な体験談、楽しみにお待ちしております。
Comment by ロカビリー @ 2013/08/21 5:15 PM
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