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若い翼は(2)

学生の身分であり、今はアルバイトもやっておられないようだったので、そのような状況で身銭を切ってわざわざ来てもらうことに対して、俺ができることは1つしかなかった。前頁にも書いたが「ありのまま」を見て感じていただくことだけである。それと、せっかくの機会なので、みかみ先生には授業をお願いした。学生講師として4年間、京都の塾でチーフとしてやってこられた腕前をぜひ見たかった。ただし、完全アウェイの地で、はじめて会う子どもにガチンコの授業。これは、文章でこうして書くとあまり緊迫感は伝わって来ないのでもどかしいが、やる側に相当の腕前と度胸がなければ「ただの授業時間泥棒」に堕してしまう大変な他流試合なのである。教科は、みかみ先生の指導経験が豊富な数学で、単元は進度がちょうど因数分解まで終わったところだったので「平方根の導入」という、最も難しい単元の1つをお願いした。

みかみ先生を待ち合わせた駅まで迎えに行く。kamiesu先生から、以前に少しだけみかみ先生のことはうかがっていた。その話の内容と、普段のみかみ先生のツイートから想像すると、非常にまじめでシャイな方。あまり自分からは話をせず、どちらかと言えば相手の話を聞くタイプ。たぶん、親ほど年の離れた見知らぬ人間に会いに来るのだから、だいぶ緊張して来られるだろう。それならば、できるだけリラックスしていただこう。そんなことを思っていた。駅で待っていると、みかみ先生はすぐに現れた。メガネをかけ、確かに真面目そうな青年である。しかも、笑顔が自然な人であった。

ところで、これはあくまで俺の経験上の話なのだが、だいたい塾講師の70%はファッションセンスがダサい。私服がダサいだけでなく、スーツの着こなしもダサい。ワイシャツやネクタイの色のセンスも、履いている靴や持ち物もダサい。しかも、小中校と勉強に心血を注いできた人は、ファッションに興味を持つヒマもなく頑張ってきたと推測できるので、私服は「お前その服さあ、かあちゃんに買ってもらっただろう?」と突っ込みたくなるほどのものを纏っていることがある。もしも、みかみ先生が、変なチェックのボタンダウンのシャツをズボンの中にインして、妙にデッかいスニーカーかなんか履いてリュック背負ってきたらどうしようかと心配していた。しかし、それは杞憂に終わる。ラフではあるがシンプルに清潔感のある私服で来られていた。

みかみ先生が車に乗ってすぐに二人の会話が始まった。先生はそれほど緊張した様子もなく、硬さや人見知りな感じもなく、普通に会話のやりとりが続く。やはり1つには、ネットを介して知り合った人の「利点」がある。ネットで知り合った人間同士は、たとえ初対面でも、まったくお互いのことを知らない人とはちがう。文章を通して相手の考え方の一端をを垣間見ているし、場合によってはコメントのやりとりもする。だから、会話のスタートが案外スムーズに行くものだ。みかみ先生ともそうだった。とても感じのいい人だ。

この日の昼間にラーメンを食されたことは知っていたが、まず、みかみ先生をお連れしたのは塾よりも先に、俺が愛するラーメン屋「丸星」。みかみ先生は俺のブログをご存じなかったらしく、最近になって読んでもらっているようだったが、この「丸星」を、俺がいつか記事にした「潰れない不味いラーメン屋」と間違われていたのは可笑しかった。(※このラーメン屋は昨年惜しまれながら閉店した)

2食連続のラーメンでも、みかみ先生は嫌な顔ひとつされずに完食され、いざ俺の塾へ向かった。その時、1本の電話がかかってきた。kamiesu先生だ。ご本人は「様子伺い」という名目の「冷やかし」と仰っておられたが、この電話のおかげで2人の場はまた笑いに包まれ、みかみ先生もさぞ嬉しかったはずである。kamiesu先生の電話のタイミングはいつも絶妙だ。

電話での話が終わり、いよいよみかみ先生が俺の塾に足を踏み入れた。既に友人が塾に入っており、お互いに自己紹介をしてしばし談笑。使用テキストと、中3生徒のレベル、座席表などについて確認。やがて、みかみ先生は授業の準備に取り掛かられた。座ってからすぐに集中モードに入られた雰囲気があったので俺は席を離れ、あまり話しかけないようにして、その授業準備の様子を雑務をしながら時々見ていた。

みかみ先生は普段、上位クラスを担当されていたようで、偏差値は悪い子でも50台後半らしい。俺の塾の生徒は下は偏差値40から上は65超えまで差がある。全体的に見ても、みかみ先生が教えられていた生徒よりはレベル的には下かもしれない。しかし、俺がその話をした時、みかみ先生は「いえ、大丈夫です!」としっかりと答えられた。そしてまた授業準備に入られた。問題集を眺めながら、ノートにメモのようなものを書かれている。何やら図もある。たぶん、授業構成の確認だ。俺はそれをチラチラ見ながら、今日、みかみ先生がどんな授業をされるのか楽しみで仕方なかった。先生が想定された予定時間は80分ということだっが俺は言った。「時間は気にされなくていいです。先生が区切りがいいと思ったところまでやってください」。

ここで生徒の保護者から電話が入る。この生徒はこの日来る予定の中3だったが、いろいろな事情があってここ数日食欲がなく、この日も学校を休んでいた。はじめ親は塾を休ませようとしたらしいが、特に頭痛や腹痛、熱などがあるわけではなさそうなので説得し、塾には来ることになった。みかみ先生にも念のためその旨を話した。みかみ先生は俺の話を真剣な眼差しで聞いていた。俺は人と真剣な話をするときに、相手の「話を聞く姿勢」をものすごく気にする癖があるのだが、みかみ先生のその雰囲気は「他人事」の話を聞く様子ではなく、まるで俺の塾でずっと講師をやっていて、ずっとこの生徒を受け持っているような顔だった。せっかく来ていただいたのに、こういう難しい状況になり申し訳なかったが、みかみ先生の姿勢が嬉しかった。

余裕を持って塾に入ったが、気がつけば授業開始時間30分前。
間もなく生徒たちがやって来る時間だ。(つづく)





 
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